序章
福井の荒島岳から冷たい風が頬を突き抜ける。
わたしは広い平野に佇み、焦燥感に駆られた。
福井の冬は我慢の季節だ。
空は暗く淀み、時折陽が差したかと思うと、白いものがちらりほらりと舞い降りてくる。
冬でありながら稲妻が其処此処で光り、地元の人間は「雪がみなりがやってきた」と口々に言う。
夜は「ゴォー」という雄たけびのような強い風が家屋の間を走り回り、夜が更けると分厚い雪にすべてが覆われる。
私はもう、この地に10年暮らしている。
早いものだ。
住めば都とはよく言ったもので、そんな厳しい冬の景色ももはや日常となってしまった。
ただ、この冬は、何かがいつもと違う気がする。
何が違うのかはわからない。
雪の色も、風の香りも、雷の響きも、いつもと変わらないはずだ。
ただ、何かがいつもと違う気がするのだ。
違和感の正体
最近、わたしはブログ執筆という新しい趣味をはじめた。
特に何かを主題として書いているわけではない。
その日思ったこと、伝えたいこと、考えたことを書きとめている。
やってみるといろいろな発見があって、面白い。
最初は続けるのは結構大変だと思っていたが、書くことというのは意外とあるものだ。
考えてみると、惰性で毎日を生きているような感じでいるが、実はそうでもないということに気づかされる。
毎日、何かを感じ、何かを考える。
その連続が日常というものなのだろう。
その日常をブログに綴り、それをきっかけに新しい出会いがあり、人の繋がりが生まれたりする。
だから余計、面白い。
だが、この焦燥感はなんだろう。
寝ても覚めても、いつまでも心が消化不良をおこしているかのように、ふわふわとしている。
嫌な気分だ。
そんな気持ちの中で、ふと目の前の古ぼけたWindows7のインストールされたパソコンに目を遣る。
長年、労苦を共にしたパソコンだ。
「君はいつまで俺の相棒でいてくれるのだ?」
わたしは彼に、そう問いかけた。
答えはなかった。
アンチグレアのちょっと暗めの画面が、まるですべてを遣り終えた老躯のように見えた。
「老兵は、ただ消え去るのみ」
画面の向こう側で、微笑みながら古い相棒が呟いた気がした。
次回予告
荒涼とした福井の冬の大地で、筆者ちゃぼPが新しい相棒を探し始める旅が始まる!
筆舌に尽くし難し、渾身のドキュメンタリー。
次回乞うご期待!!