序章
燦々と降り注ぐ夏の陽射しを避けるように歩く。
ここは東京杉並。私は母の三回忌の墓参に来ている。
昔、「思えば遠くへ来たもんだ」というフォークソングがあったけれど、時は止め処なく流れ、まるで子供の頃から見慣れた風景だけが置き去られているかのようだ。
私は供えの花と水桶を抱えて、寺の間貫通りを歩き、墓前に花を手向ける。
昼下がりの平和な風景と、昔を振り返るには充分な時間。
墓碑に向かって手を合わせ、静かに頭を垂れるだけで様々な思い出が頭のなかを駆け巡る。
ふと現実に戻り、踵を返した私は、元来た道を歩き始める。
「福井へ帰ろう」
2016年夏。ジリジリと刺すような陽射しを手土産に、このまま私は静かに東京を去るつもりだ。
遠くで幽かに轟く雷鳴が鳴っている。こんな暑い日はカミナリ雲が出来やすい。そんなことを考えながらぼんやりと歩き続ける。
それが嵐の前兆であるとも知らずに。
第一章 雑沓と喧騒
昨夜は気心知れた古い友人と食事をして随分と盛り上がった。
エビも美味しかったし、とにかく話が尽きない。話題も昔のまま。やっぱり古い友人というのはいいものだ。
翌朝、朝ごはんを食べ、寺に出向き、法事と墓参を済ませたら福井に帰るはずだった。
旧友にも会えたし、福井ではなかなか食べられないものも頂いた。
だが、嫁さんがショッピングをしたいという。寺のある高円寺というところに近い繁華街といえば、吉祥寺だ。実は私の実家はこの吉祥寺だった。最近では「若者の住みたい街ランキング」の1位2位あたりに張り付いているほど人気の街。
昔はホント、下町っぽい雰囲気でオシャレな街とは無縁だったような気がするが、確かに駅前の様相も一変し、随分とオシャレになった。
私は特に買いたいものはないので、どうしようかな、と思っていたら、数年前に大きな電器店がオープンしていることに気づいた。
「暇つぶしになにか面白いものがないか覗いてみよう」
そんな軽い気持ちでそこから私は単独行。真新しい駅ビルを出ると、駅前は活気に溢れている。
そうか、今日は日曜日だ。喧騒と雑沓をすり抜けるようにして私は電器店に向かった。
歩いて数分で到着したここも、すごい人で溢れている。
さて何を見ようか。1階はスマホコーナーで、エスカレーターを上った2階がカメラコーナー。そういえば私がNikon D5500を手にしてからもう半年が経過する。
ブログを始めてまさか一眼レフデジカメを手に写真を撮るなんてことになるとは思ってもみなかったが、それなりにいろいろな写真を撮影し、写真を撮ることの楽しさが日に日に増した。
最近じゃあ、ミラーレス一眼という、ファインダーを取り除いたちょっとコンパクトなカメラが人気。確かに一眼レフカメラは大きいし重い。常に持ち歩くにはちょっと躊躇うサイズだ。
D5500も一眼レフカメラの中では最軽量クラスだと思うが、ミラーレスはどんな感じだろう。
そんなことを漠然と考えながら、エスカレーターを外れて2階の売り場へと進んでいくのだった。
次回予告
真夏に郷里へ帰省したちゃぼPが向かった先は、大きな電器店。
すっかり写真を撮ることに魅了され、たくさんのカメラが並ぶ売り場へと誘われるように消えてゆくちゃぼP。
騒々しい店内に於いて、静かに何かが動き始める気配がそこにはあった。
次回、ちゃぼPが居並ぶ錚々たるカメラたちに翻弄されてゆくことになる。
新連載シリーズ「燃ゆる夏」の更新を静かに待て!