クリント・イーストウッドが自ら主演もしくはメガホンを執る映画は、どれも「苦悩」が描かれるものが多い。
ハリウッド俳優のなかでも飛び抜けてフレンドリーな俳優「トム・ハンクス」が、来日して映画の封切りに立ち会ったのはつい先日のことだ。
「トム・ハンクス」とカタカナで書かれた提灯を持って、嬉しそうに(といっても演出だとは思うけれど)笑顔を振りまいていた、そのトムが宣伝した映画は、「ハドソン川の奇跡」という。
主演「トム・ハンクス」、監督「クリント・イーストウッド」。
それはニューヨークで起こった実話をもとにした映画である。
乗員乗客155名、離陸後わずか3分ほどのストーリー
日曜の昼下がり、私のよく行く映画館は大型ショッピングモールの中にある。複数のシアタールームを備えた映画館である。
客の入りは日曜の昼間であるにも関わらず、結構余裕がある。やはり福井だからか、それとも家族連れが多かったからか、子供向けの映画に人気が集中していたのかもしれない。
ワタシはトムハンクスもイーストウッドも大好きなので、ニュースを見た瞬間に映画館に橋を運ぼうと思っていたけれど、拍子抜けするほどの混雑具合だった。
ともあれ、映画は余裕のある方が観る方にとってはありがたい。映画館側は大入り満員のほうが良いかもしれないが・・・
「ハドソン川の奇跡」とは、実話である。
2009年1月15日、ニューヨークラガーディア空港を飛び立ったUSエアウェイズ1549便が、離陸直後に鳥の群れに遭遇、運悪く左右のエンジンに鳥を吸い込み、エンジンが停まってしまった。
その時高度はたったの900メートル。推力を失った航空機は、それ以上上昇することが出来ない。
眼下にはマンハッタンのビル群や住宅街、そして2001年に起こった同時多発テロで倒壊したワールドトレードセンター跡の「グラウンド・ゼロ」がある。
エンジン音が消えた機内では、誰もがあの「9.11」のことを思ったに違いない。
そして、この物語の主人公でもある、1549便のサレンバーガー機長(ニックネーム:サリー、本映画の原題)が苦悩の末に決断した着陸「滑走路」は、ニューヨークを流れる「ハドソン川」だった。
多くの場合、航空機はエンジンが停止しても安全に着陸できるように設計されている。但し、それは一つでもエンジンが動いている場合の話だ。すべてのエンジンが停止してしまえば、いくら現代の航空機が安全設計とはいえ、条件は限られる。
これがかなり高い場所であれば、例えエンジンが停止したとしても、地上に降りるまでに時間的な余裕が有るため、最寄りの空港まで降りるための計算もできるし、管制からの誘導も受けられる。
だが、1549便は離陸直後、これからまさに巡航高度へ上昇する途上だったため、エンジンが停止してから地上に降りてくるまでの時間は約3分の猶予しかなかった。この間に、クルーたちはエンジンのチェックと再始動、機体の制御、管制とのやり取り、そして着陸先の選定を行うことが必要だったのだ。
「サリー」以下クルーたちは、突然立ちはだかったその不可能とも思える操縦を間一髪のところで成し遂げた。
乗客乗員155名、全員無事。
彼らは「ハドソン川の奇跡」と呼ばれた。
だが、この映画はその後の「苦悩」こそがメインテーマである
これ以上はネタバレになってしまうので、これから映画を観る人のために多くは書けない。
だが、イーストウッド監督の作品は、一見脚光を浴び、「英雄」とされる人の心の葛藤を描くことが多い。
古くは自身が主演していた「ダーティハリー」もそうだったし、イラク戦争を題材にした「アメリカン・スナイパー」もそうだ。
とにかく、フィクションであれ、実話を元にしたストーリーであれ、「骨太で人の魂を揺さぶる」映画が彼の真骨頂である。
いかにも人の良さそうなトム・ハンクスが、苦悩に苛まれる主人公を演じている。
まるでそれはイーストウッドが魂を吹き込んでいるかのようで、実に見応えがある。
ちなみにこの映画、撮影に際して実際に本物のエアバスA320型機を1機購入して撮影、登場人物の一部は実際に救助や報道を行った人物をキャスティングし、徹底的に事故当時をリアルに再現して撮影したそう。
髪を白く染めたトム・ハンクスが、「サリー」の苦悩と葛藤を見事に表現しているとおもう。
是非オススメしたい映画だ。グッとくる。