誘い
今年の福井は雪が少ない。
例年と比べると温暖で、冬の嵐もどこかへ行ってしまったのではないかと錯覚するようだ。
Surface3。
そんな福井で、私は此奴にSIMカードを入れ、バリバリと使い始めた。
そう、彼は私の新しい相棒。
時にはPC、時にはタブレット。
まるでスーツとカジュアルをスマートに着こなす、オトナのオトコそのもの。
その所作は、繊細で確実だ。
そんな彼に、幽かな不満もなかった。
ないつもりだった。
私は部長ナビという、遠く離れた北国の学校教師とひょんなことから知り合いとなり、
得意のワードプレスのサポートを行うことになった。
彼は、Macを使っていた。
MacBook Pro 15inch Retinaモデル。
こいつはAppleの出すノートブックコンピュータでは最強の機体だ。
私にはすでに新しい相棒がいる。
彼はよく働いてくれるし、不満もない。
それに、Windowsに慣れ親しんだ私は、最初からMacBookは相棒となりうる対象から外していた。
だが、そんなことは御構い無しに、その北国の教師は毎日のようにMacBookの素晴らしさを自分のブログに綴っている。
そんなにいいものなのだろうか。
私の心は幽かに揺れた。
だが、こんなに機動性に優れたSurfaceよりも、素晴らしいという彼の言葉は、俄かに信じがたい。
そんな私の思いは、ただし、確信ではなく、ゆらゆらと風に揺らめく蛍のように頼りない。
「とりあえず、一度会ってくるよ」
私は、相棒であるSurface3にそう言い置き、電気店へと足を運ぶことにした。
頼りない、私の気持ちを、確信に変えるために。
吹き荒れる、風
福井では、MacBookなど置かれているような店舗は数少ない。
都会ではないから、そもそも需要がないのだ。
そんな中、一抹の不安を抱えた私はMacBookを取り扱う電気店へと降り立った。
入り口の方から順番にパソコンを眺めてゆく。
私は最初からMacBookに触れるのが怖かった。
その気持ちは、まるでひたすら片思いを続ける女性と対面して、愛想笑いを浮かべられるのを恐れているかのようだった。
気後れをしながらMacBookコーナーたどり着いた私は、恐る恐るMacBookに手を触れた。
その瞬間。
私の体は電気に打たれたように、硬直した。
なんだ、このタッチ感は!
何なんだ、この美しさは!
いっぺんに私は「彼女」の虜になってしまった。
性能とか、拡張性とか、もうそんなものはどうでもよかった。
今まで散々不便だ、使いにくい、スペックが足りない、電池が持たない・・
歴代のパソコン達にそんな難癖をつけていた私は、自らの不明を恥じた。
いけない。
こんなに鼓動が高まった状態で、これ以上彼女に触れたら、私の心は溶けてしまう。
私は突然に怖くなって、かぶりを振って店を後にした。
今は、ただ、落ち着こう・・
それだけを自分に言い聞かせ、エスカレーターを駆け下りた。
表に出ると、穏やかだった福井の空が、
山の方から暗くなって、俄かに風が強くなっていた。
今夜は嵐になるだろう。
兎に角、家に帰ろう。
それだけを考えるように、車に乗り込み、エンジンをかけた。
次回予告
足早に店を後にするちゃぼP。
その心は乱れに乱れ、冷静ではとてもいられない。
同時に例年になく穏やかだった福井の空が、俄かに暗くなって、とうとう嵐となる。
次回、やっとの思いで家にたどり着くちゃぼPの行動は・・?
急転直下のちゃぼPの心の葛藤に乞うご期待!!