【連載】俺の相棒(4)~ベテルギウスの赤い光

葛藤

指先が震えている。

まるで何かから逃れるように帰ってきた私は、気持ちを落ち着かせるために一杯のコーヒーを淹れた。

キリマンジャロの豊潤な香りが、私の高ぶる感情をさすってくれるかのように、鼻腔の中を駆け抜ける。

 

誰かにこの気持ちを打ち明けるべきか、否か。

誰かに打ち明けるとすれば、盛岡で教鞭をとる彼だ。

だが、彼は迷いもなく云うだろう。

 

「ブロガーなら、迷う意味がない」と。

 

そんなことは言うまでもなく分かる。

人間というものは、正しいことや間違っていることは誰でもわかるのだ。

どの道を選択するか。

それが、その人の個性であり、矛盾であり、過ちであり、人生だ。

その選択こそが、それぞれの別の未来を創り上げる。

 

Surface3を目の前に置き、今更ながら「ただいま」と云った。

彼は、いつも通りログイン画面を表示したまま、「おかえり、どうだった?」と云った気がした。

 

返す言葉がない。

 

たかがパソコンだ。道具じゃないか。

何を使おうが、人をだますわけじゃない。

だが、言葉を返せなかった。

 

ゆっくりとパスワードを入力して、見慣れたデスクトップを表示させる。

ブラウザを起動し、世の中のニュースや、例の教師のブログを眺めたりして時間が経つのをゆっくりと噛みしめた。

世の中は普通に回っている。いつも通りだ。

 

その中で、私だけが動揺している。

ああ、何故出かけてしまったんだろう。

そして、何故出会ってしまったんだろう・・・

 

子供がイヤイヤをするように、私は目を閉じ頭を振ってパソコンを閉じた。

これ以上、今考えても答えは出ないと思えたのだ。

ひとすじのひかり

ソファーで横になってひと眠りし、支度をしてスポーツジムへ出かけた。

こんな時は体を動かすに限る。

ダンベルを揚げ、ランニングマシンで息が切れるほど、走った。

 

おもては先ほどまで冬の嵐に包まれていたが、束の間の冬の星空が覗いている。

北陸の空は、こんなことがよくある。

ふと窓の外を見ると、オリオン座が煌々と光っている。

なんでも、オリオン座で赤く輝くベテルギウスは、星の寿命なんだと云う話を聞いたことがある。

600光年も離れているから、今見ている光は、実は平安時代頃の光で、すでに爆発して星自体が無くなっているかもしれないと。

壮大な話だ、儚い話だ、などという他愛もないことをぼんやりと考えながら、走った。

ベテルギウス

そう言えば昔、星の写真を撮りたくて、寒空の下で天体撮影を行ったものだ。

もし、今あの星がすでに無くなっているのだとすると、実体のないものを一生懸命追いかけていたということか・・・

だが、もし仮にわれわれの住む地球のような星が他にあったとして、遠くから地球を見ていたら、その地球は果たしていつごろの地球の姿なんだろう。

 

実体。

それは目の前にあるようで、実は存在しないのかもしれない。

見て、触って感じ、「存在する」と「証明したこと」にしているが、とどのつまり、時間というものも、空間というものも、この掌でつかむことすらできないでいる。

それが人間の限界なのだ。

私は、はたと我に返り、ランニングマシンの「停止」ボタンを押した。

 

所詮、人間は考えることしかできない生き物だ。

神から絶対的な正解を常に与えられ、それに沿って生きることなどできない。

心の欲するままに、生きること。

それが結局は自分の幸せに繋がり、自分が幸せになることで、人も幸せにできる。

 

そうなのだ。

人間など、それくらいのことしかできんのだ。

ほんの少し、勇気が生まれた。

次回予告

オリオン座を眺めながら何かを感じ取ったちゃぼP。

先ほどまで悩みの分だけ重くなっていた彼のクルマは、少しだけ軽くなりスピードが上がる。

いよいよ感動クライマックスの幕開け、自分を信じて歩き始めるちゃぼPの第一歩に、乞うご期待!!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です