第四章 忍びよる足音
東京から約三時間半。
新幹線と在来特急を乗り継いで福井までたどり着くと時間はすでに9時を過ぎ、駅前の人通りもまばらになっていた。
駐車場に停めておいた車に荷物を積み込み、自宅へと帰還する。
本来なら落ち着くはずの我が家も、何か忙忙として落ち着かない。
原因はわかっている。
今日、店頭で触れたアイツだ。
あの、シャッターボタンを押した瞬間に合焦する衝撃的なオートフォーカスと、私の手にしっくりと馴染み、まるで音楽のように心地よいシャッター音を奏でるアイツ。
東京から戻ったばかりの愛機D5500を前に置き、これまでD5500で撮影してきた写真たちを眺めた。
昨年末に盛岡のブログ仲間「部長」から勧められて購入したNikon D5500は、約半年という短い時間のなかで、たくさんの瞬間を切り取ってきた。
冬の福井、打ち上がる花火、穏やかで広やかな海、そこで穫れる海の幸。
どれも貴重で美しく、素晴らしい瞬間ばかりだった。
思えば、ファインダーの小さな窓は、普段見えない世界を覗くための窓だったのかもしれない。
ある一点にのみ焦点が合い、四角く切り取られた世界は、普段意識することのない幾つもの表情で溢れている。
そんな「窓」の中に広がる風景を見た瞬間に、「この瞬間を記録したい」という気持ちが私を支配する。
ガジェットの写真もグルメの写真も、人や風景もすべてそんな気持ちのアウトプットでしかないのだ。
だから、とても小型で高性能なD5500で何の不満もなかったが、あの衝撃的な80Dの挙動は未来を感じさせるのに充分だった。
「あのカメラで、たくさんの瞬間を記録したい・・・」
福井に戻って普通に仕事をする每日に戻ってからというもの、日に日にその思いは募っていった。
D5500と共に来た道。
暑い夏の盛りに突然現れた道の分岐点が、今にも手の届きそうなところで陽炎に揺れている。
心のなかで踏ん切りをつけるようにして、私は決心した。
新しい、「窓」を覗くために。
次回予告
通常別のメーカーの一眼レフに乗り換えるということは、レンズもすべて刷新することを意味する。
だから、それほど簡単な話ではないはずだ。
だが、心の歯車に挟まったD5500への思いを振り切るようにして、一気呵成に事態は動く。
新たな出会いと別れを予感させる梅雨の終わり。
彼は新たな道を選択するのか?
ちゃぼPが出した答えとは?
蝉時雨舞う真夏に起きたノンフィクション「燃ゆる夏」の次回最終回に乞うご期待!